蛍の光

蛍の光 窓の雪…』卒業式で歌う蛍の光の出だしです。この「蛍の光」を実感している人は今どれだけいるでしょう。

 

僕も長い間、この歌の出だしは、単なる言葉の飾りとして認識していました。しかし僕は、30歳初め頃、この「蛍の世界」を垣間見ることができました。その時僕は、仕事の関係で栃木県今市市に住んでいました。

 

今から40年も前ですから、農村風景がまだかなり残っていました。そして夜になると、蛙の鳴き声で家中が包まれました。都会育ちの僕にはとても新鮮で驚きでありました。

 

ただそれ以上にはっきりと記憶として残っているのは、小川沿いの草むらに集まる蛍の光です。それはまるで別世界でした。その小さな光の帯によって照らし出された小川がそこにありました。昔、日本の農村では、これは当たり前でいつもの光景だったのでしょう。

 

実はその後、老人ホームに入所している母から、蛍の光の思い出を聞きました。認知症ではありますが、その光景はかなり鮮明にあるようです。

 

箒に砂糖水をつけて「蛍狩り」をしたといいます。箒に付いた蛍を小さなカゴに入れ家に持ち帰り、その小さな光を楽しんだといいます。「それで本も読めるのかな」と尋ねると、読めたよといいます。今の僕にとっては、おとぎ話のような話です。

 

『ほう ほう ほーたるこい。あっちのみーずは にいがいぞ。こっちのみーずは あーまいぞ。』これも作り話ではなく、当時の子供たちの世界だったのですね。100年もたたない過去から遠い光が忘れかけたように差してきました。