自己認識の瞬間

意識の始まりは、自分を外から見ることが可能になった瞬間です。では、自分を外から見ることが可能なのは、どういう条件がそろった時なのでしょうか。その瞬間こそ、人が人になったっ瞬間なのではないかと思います。

 

赤ちゃんが、鏡を見てそれが自分だと認識するのは、1歳から2歳ということです。具体的には、赤ちゃんの鼻に口紅つけて、それが自分の鼻についている口紅と思って、自分の鼻を探るかどうかという事で、自己認識があるかを判定します。犬や猫などでは、鏡に映った自分を見て、それを他の犬や猫としか認識できないのです。そしてこのような認識ができるのは、知能が高いことが求められます。今まででそれに成功した動物は、チンパンジー、オランウータン、ゾウ、イルカ、シャチということです。

 

赤ちゃんが、初めて鏡に映ったのを見て、「これは、他の人ではなく、自分自身なんだ」と気がつく瞬間があるのです。僕は、その瞬間、何が起きているのか知りたいのです。そしてそれこそ、人が人になった時なのです。その時、自然と一体になり、意識など何も無い状態から、その身体を離れて自分を見る自分が誕生するのです。それは、今まで混沌とした中から抜け出て、“分かった!”と叫ぶ時なのです。

 

そして、分かった!と思った瞬間、わからなかった時のことが分からなくなる。わかるという事は、分からないことを忘れる瞬間でもあるのです。

 

僕は一時期塾の教師をしていました。小学校3年生で「小数点」をおしえます。でもこれが分からない子がいるのです。1と10の違いが分かるのに、0.1と1の違いが分からないのです。これはとても難しいテーマです。僕は、1個のビスケットを10個に割って、0.1と1の違いを説明しようとしました。そもそも、どうして一つのものを幾つにかに分けなくてはならないのか、そんなことから考えが進まなくなっているのです。

 

でも、何遍もやっているうち、1と1を足していいように、0.1と0.1を足してもいいんだと気がつく時があるのです。そうしたら、もう悩まなくなる。そうして、それに悩んでいた自分を忘れるのです。

 

人も、自分を認識した瞬間、自分が自分を認識できなかったことを忘れているのだと思います。