ひきこもり

ひきこもりとは、仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上自宅にひきこもっている状態のことだ。内閣府の2019年3月29日の発表によると39歳以下で54万人、40~64歳で61万人いるという。中高年の7割以上が男性だ。

 

実は、僕は身近で、引きこもりになってしまった人を何人か見ている。いづれも10歳代から20歳台の若い男女である。その経験からいうと、その人たちはとても真面目である。人間関係や、何かショックなことがきっかけで、自分を他人に対して出さなくなった。人に対する恐れと、自分に対する自信のなさがその根本的な理由と思われる。

 

彼らは決して能力的に低い人間ではない。いやむしろ高い感受性を持っている能力の高い子だ。しかし、僕の力ではその引きこもりを直すことはできなかった。

 

僕は子供の時に見た、床下にも繰り込んでしまった子猫のことを思い出す。それは床下から聞こえる小さな声で気が付いた。覗いてみるとよちよち歩きの子猫だった。暗闇の中で空気の取り入れ口の方を見ている。子猫がいるのは、僕が入っていけるようなところではなかった。

 

そんなところにいたら、ネズミか毒虫にやられてしまう。早く出ておいで。僕は手招きをして呼んだ。しかし近寄ってはこない。僕は食べそうなものを置いて、寄ってくるのを待った。子猫はにおいを頼りに近づいてきた。手を伸ばせば届きそうだったので、僕は思わず手を差し入れた。その途端、子猫は翻って、奥の方へ行ってしまった。あとはかすかに声が聞こえるのみだった。もう餌を置いても近寄ってはこなかった。

 

後になって僕は、子猫はなにかおびえていたのだと分かった。何か怖いことがあったのかもしれない。逃げて潜り込んでしまったのだろう。

 

ひきこもりも何かこのことに似ている気がする。無理に引っ張り出してはだめだし、そうしたらかえって引っ込んでしまう。無理に引き出せたとしても、精神的におかしくなってしまう可能性もある。まずは辛抱強く、本人の心の壁と恐れを取り除くことを支援するしかない。引きこもりの子の心は、手の届かないところにいる子猫のようなものなのだ。