3つの食べ物

僕の母は老人ホームで生活しています。ありがたいことにホームは自宅からの徒歩圏なので、僕はほぼ毎日ちょっとですが顔を出して様子を見ています。最初のころは元気がなく、食事もあまり進まなかったので、元気にさせようとして無理にでも食べさせようとしていました。

 

そしてしばらく経過したとき、母の望みはこんな押し付けられた元気ではないということに気が付きました。元気でないから元気でないのです。そしてある日食べ物は口から入れるものだけじゃないんだということに気が付きました。それは、口から体に入れる食べ物、頭に聞かせる言葉の食べ物、そして心に伝える音楽の食べ物の3つです。

 

実は僕は、風花未来というYouTubeで詩を読むことの大切さを学びました。声を出して読むことによるエネルギーを感じていました。そこで母にもいくつかの詩を持っていき一緒に読んでみたのです。いくつか試したのち、枕草子にたどり着きました。母の読んで楽しいという気持ちの変化を感じ取りました。これが「言葉の食べ物」を知ったきっかけでした。気持ちが動くと元気になっていくのです。言葉の力だと思います。

 

しかし疲れている時、休みたいときに本を読もうとしてもダメでした。でもそんなときでも音楽は眠りながらも聞いています。僕はいつもキーボードでパッフェンベルのカノンをひきます。母に寝ていたの?と聞くと、「聞いていたよ」といいました。そしてこれは口からの食べ物でも、言葉の食べ物でもない、心の食べ物だと気が付きました。気持ちを安らかに穏やかに優しくしてくれる音楽は、明らかに必要な食べ物です。

 

食事だけではない食べ物があることに気がついてから、食事が進まない母を見てもそれほど焦ることはなくなりました。