天井の宇宙

僕は小さい頃、祖父から昔話を聞きながら寝た。その頃、妹はまだ乳飲み子だったので、僕だけ祖父の部屋に行って2人で寝ていた。布団に入って、手元の電灯を暗くして、「今日は何にするかい」と祖父が言う。

 

「桃太郎」とか言うと、ゆっくり「昔々、お爺さんとお婆さんがいました。」と話し始めます。僕は何遍も聞いた話を、初めて聞くように、色々思い浮かべながら、聞いていた。

 

話は覚えているので、その声は、バックミュージックのようになっていく。そして、豆電球に照らされた天井板を見ていた。その木目模様には、川の流れや山や小さな動物がいた。渦をまいていたり、目があったり、雲があったり。

 

そして欄間の模様は、ちょうど鳥が飛んでるように見えた。その真ん中に掛けられた書の文字は、3人の人が立ち話をしているようも見える。言い争っているようにも見える。ふすまの模様と、廊下側の、障子の白に照らされて、そこはまさに、天井の空・宇宙だ。不思議なことに何度見ても飽きなかった。

 

あれはとても豊かな世界だったんだなあと、現在の寝室の天井を見て思う。それはただ白いシートが張られているだけで、何も見えることはない。

 

ふと、今の子供達はこのような天井を見て育っているんだと気づいた。いやなんとも味気ない。あの豊かな世界を見ながら寝入ったら、子供は夢の世界でも宇宙を駆けずり回っているのに。

 

そのような経験を持てないのは、寂しい思うが、恐ろしさも感じる。幼い頭の中に、あの豊かな模様が描かれないのだ。あれを補うものが、今の子供たちにあるのだろうか。

 

祖父の話を聞きながら、天井を眺め、いつの間にか寝入っていた。